歯周病は高血圧や糖尿病のように自覚症状なく進行する生活習慣病と言えます。歯周病菌による感染症でもあります。自覚症状が出たときには手遅れなんて状態も頻繁に見てきました。私たち歯科医療従事者にとっては日常でのことで麻痺しているのでしょう。その歯に希望が持てなければ「抜きましょう」と簡単に提案します。きっと皆さんにとっては晴天の霹靂なのだと思います。そんな歯周病について、また治療手順とメンテナンスの重要性についてご案内させていただきます。
健康な状態であれば歯は十分な量の骨に支えられ、歯肉を貫通するように生えています。貫通すると記載しましたが実際には歯と歯肉は接着しています。歯と歯肉の間には歯肉溝というポケットがあり、健康な状態でのポケットは2mm程度です。歯の表面にプラーク(汚れや細菌の塊)が付着し残り続けることで、まずは歯肉に炎症が起きます(歯肉炎)。歯肉は腫れ赤くなり毛細血管が破れ出血しやすくなります。歯肉の炎症が進行すると、歯周ポケットは深く緩くなり、歯の根の表面に歯石がつくようになります。このような状態が悪い方向に循環し進行すると、やがて歯を支えている骨に炎症が及ぶことになりますが、人体は骨が炎症を起こすのを嫌がり痩せて逃げようとします。実質的に骨が溶けて失われていくのです。骨が溶け始めると歯周炎という診断になりますが、一般的には歯周病と呼ばれます。歯周ポケットの深さや骨の溶け方で歯周炎の重症度が決まります。
さて、あなたの歯は今現在何本あって、それぞれの歯はどんな状態でしょう?これは検査をしないとわかりません。私たちでさえ、お口の中を見ただけではわかりません。本数は見ればわかりますが、歯肉の中に埋まっている‘親知らず‘があったりもします。その親知らずが歯周病悪化の原因だったりもします。
歯周病治療のゴールは炎症がない・少ない状態に持ち込むこと。そして、その状態を維持することです。治療の過程で、出来れば溶けて失った骨が少しでも回復してくれたら御の字ですが、劇的な回復はあまり期待できないと思っていてください。
最初に歯周病は生活習慣病と述べました。例えば生活習慣病での糖尿病は何らかの検査で引っ掛かり、病院で再検査を受け診断されることが多いでしょう。そして薬を処方されながら、生活習慣の見直しを提案されます。食事に制限をかけたり運動をしたりと、医師任せにできない日常での努力が必要になります。歯周病は細菌感染という側面もあるため、あなたの日常の努力と、私たち歯科医師・歯科衛生士による処置をかけ合わせて抑え込まないといけません。飲食店のような『シェフにお任せコース』は存在しないのです。
歯周病治療において、あなたの日常に必要な努力とは何でしょうか?まずは適切な歯磨きと適切な道具の使用です。そして適切な治療を受けるための通院時間の確保と予約日時を忘れないでください。
歯周病の診断と治療のステップについて
健康保険適用の歯周病治療は数多くの行程があり、また制約も多くなっています。しかし実に理にかなったシステムになっているのでご説明させていただきます。行程をまとめた図を下に記します。
歯周病の進行具合により処置にかかる時間や期間が異なります。基本的に積極的な治療は3段階あり各ステップの最初に検査を行います。各検査の間は1か月開けるルールになっていて、各ステップの処置も1回では終わりません。これは日本歯周病学会が提唱している歯周病治療の理想的な進め方に則ったものです。理にかなっているシステムと申し上げたのは、回数や期間はかかるけれど、処置による攻撃から歯肉が回復するのに2週間かかるため、このように細かくスケジュールが組まれているためです。また、早い段階で適切な歯磨きを獲得していただかないと、治療と感染の追いかけっこが永遠に続きます。
この手順自体が制約でもありますが、別の制約もあります。それは歯周病治療をするのであれば、歯周病治療が終わるまでは最終的な健康保険適用の被せ物(クラウンと呼びます)を作ってはいけないということです。歯肉の状態が落ち着いてから適切に作りましょうということです。お勧めはできませんが、早い段階で最終的な被せ物を作って終わりにしたいという方は、どこかの検査をもって歯周病治療を切り上げることは可能です。お申し出ください。ただし、被せ物を作ってから積極的な歯周病治療に戻ることは認められていませんのでご注意願います。
小さな虫歯を削って埋めるような治療は歯周病治療の制約を受けないので同時進行が可能です。しかしこれも汚れの残っている状態で進めると詰め物を付けながら汚れを巻き込んでしまい、虫歯の再発につながることがあります。歯肉に炎症がある状態では出血しやすく、出血が接着材の機能を阻害してしまうため後に再治療が必要になる可能性につながります。
汚れを残さない、歯肉に炎症がない状態を作ることが何よりも優先されるべきとお考え下さい。
メンテナンスと予防について
積極的な歯周病治療の後に必要なのがメンテナンスです。治療が終わった状態の維持、さらなる改善、新たな問題の早期発見と早期治療を継続することが重要です。一般的には予防と呼ばれるようになってきました。
日本の人口動態から2040年までは要介護状態になる人が増え続けると予測されています。国としては医療や介護にかかる費用を抑えるべく健康寿命(自活できる限界)を引き上げようと働きかけ計画しているようです。そこで注目されたのが『歯』でした。統計的に状態の良い歯が多く残っている人ほど健康寿命は長いのです。歯を大切にすることで皆さんにも永く健康であって欲しい。私たちはそう願っています。
前のページの図の右下にメンテナンスについて記載をしました。3カ月に1回というペースが健康保険適用で受けていただけるメンテナンスの基本的な間隔です。メンテナンスでのご来院時には歯科衛生士が担当します。毎回歯周検査を行い、お口の中の状態に適した清掃をご提供します。
最後に
メンテナンスまでに必要なのは最適な治療と自己管理です。歯周病治療だけでなく虫歯などの治療にも当然必要な条件です。歯周病治療のみ必要で他の処置は一切不要だったという方に、これまでお会いしたことがありません。虫歯の治療や過去の治療のやり直し、劣化した修復物の刷新などを必ずセットで行っています。
虫歯の部分は削って無くなりますが、残念ながら歯自体は治りません。私たちが行っているのは治療という名前の修理です。
では、最適な治療とは何だと思われますか?
私の考える最適な治療とは最適な材料と最適な技術を合わせたものです。
最適な技術に関しては、スタッフ共々私たちは日々精進しているつもりですし自信があります。最適な材料とは、強度があり長期にわたり維持安定し、精度が高く汚れが付きにくい素材であることです。
歯が生え変わってくれたら私も楽ですし、自己修復してくれるのが理想ですが現実的ではありません。歯を再生する研究もされていますが、実用までにはまだ長くかかるでしょう。歯や歯肉に親和性の高い元の歯により近い条件が現状では最良です。
あいにく、この条件に見合った健康保険適用の材料は存在しません。
最適な材料の条件を満たしてこそメンテナンスを越えた本当の予防につながると考えています。
保険適用外にはなりますが、予防に最適な素材であるセラミック治療をご検討いただけますと幸いです。